朝、仕事場へと行く道の途中で、じーっと一つのゴミ袋を食い入るように見つめているおじさんがいた。背中は少し曲がってはいるが、年はそこそこ若そうだ。おじさんは、新宿公園にいそうな風貌で一種独特な臭いを発している。この道を行く人、行く人、皆おじさんが気にかかる御様子で、振り返って見る人もいれば、そばまで来てそのゴミ袋をのぞく人もいる。一体、このおじさんは、何を目的にこのゴミ袋を見つめているんだろう…と、たぶん誰もが思ったに違いない。見つめている目が尋常では無いからだ。気にかかりはするけれど、仕事に行かなくてはとその場を去った。仕事を始めて15時間。仕事の内容からか今日は特に長い一日に感じた。午前1時、すでに外は暗くなり人通りも少なくなった中、帰路についた私が見たのは、朝となんの変化もないじーっと一つのゴミ袋を食い入るように見つめているおじさん。朝と同じ場所で同じ形、同じように目がたった一つのゴミ袋に釘付けだ。
なんなんだ! どういうことだ!
まさか、そのゴミ袋の中に何かいるのか?
もしや、そのゴミ袋がおじさんになんかしたのか?
怖い、なんだかものすごく怖い。ゴミ袋ごと怖く感じる。
一体、何を考えているんだろう、このおじさんは。15時間ですよ、おじさん。立っているだけでも一苦労でしょ、おじさん。おじさんに尋ねたい事がいっぱいある。
私の15時間はおじさんの15分なんだろうか、もしかしたら私の15時間は15分くらいの事ではないだろうか…。私に尋ねたい事がいっぱいになる。
ふと…、刻々と刻まれる時間に目をやる。おじさんの姿を見てからすでに15分以上が経過していた。これでは、私もおじさんの仲間入りだ。背中に寒気を感じて家へと急いだ。
とまあ、こんな流れで今回の作品を書くに至りました。
今回は、副題を「シヌホド退屈」としたのは、もちろん、退屈なものを書きたかったのではありません。『シヌホド退屈な時間を感じる』その時を書きたかったからです。「退屈」という言葉では無いのかもしれません。ですが、ぴったり合う言葉が思い浮かびません。「シヌホド退屈」な時間は、何もしない時間とでもいいましょうか…。たぶん、とても幸せなんじゃないか?と思うのです。 著・松川晃子